0.Möbius Ende - ヴェルトフォイア





 それを運命と呼ぶのなら、何を信じれば良いのだろう?







 序章 . Möbius Ende






  E.S.727 , 08 , 01    16:21




5


 そこは、まさしく戦場だったように思う。
「きゃあっ!」
「っ!」
 熱波にも似た物が、二人の間を駆け抜ける。ちりり、と産毛の焦げる匂いがして、彼らは慌てて腕をクロスさせた。ぼんやりとした光の幕が二人の前に浮かび上がる。
「ダメだ、俺達じゃちょっと、手に、負えないっ!」
 言いながらも、彼はクロスさせていた腕を薙ぎ払った。幕を切り裂くかのように、高圧的なエネルギーの固まりらしき物が、相対する敵に向かって地を走る。
「八神さんに、八神フォーサーに連絡を!」
 その横で、少女は敵の拳を交わしながらそう叫んだ。こめかみから流れる、邪魔な血をぬぐい去りながら。










4






「まいど、ありがとうよ!」
 自分の母よりも、遥かに年上だろう女性を相手に、彼はぎこちない笑みを見せて商品を受け取った。
 都心から、田舎と言っても過言ではないこの街に移り住んで、随分経った筈だった。だが、今でも彼は笑みを浮かべるのが酷く苦手である。
 それでも多分、前に比べれば大分ましになっただろう。
「…………」
 無口な彼を、女性はニコニコと見送った。
「リンゴ、オマケしといたから、囓りながらお帰り!」
「あ……」
 ありがとう、の一言さえ言えず、代わりに彼は頭を下げた。









3





 じわり、じわりと光の幕が薄くなっていく。それは、敵の放つ熱波に、段々と削り取られているようだった。そして、幕が薄くなって行くに従って、彼らの表情も段々と険しくなっていった。
「ダメよ、持たない」
「リーダー!俺達のシールドじゃダメだ!」
 振り返る事も出来ず、男は声を張り上げた。
「分かっている」
 リーダーと呼ばれた男は、顔を顰めて耳の横に付いた小さなボードを必死に操作していた。そこから繋がる左目の前のスカウターに、英数字の羅列が蕩々と滝のように流れていく。
 彼の耳には、小さいけれどミシリ、ミシリと空間の軋む音が聞こえていた。結界の限界値が近付きつつあるのだ。
 スカウターに流れる英数字は、一向に止まりそうにない。
「ダメだ、ジャミングをうち破れない」
「長距離テレパスの、不足も、問題だよ…グッ」
 男が呻いた。







2




 リンゴは瑞々しく、甘酸っぱかった。囓ると酸味が程良く広がる。
 彼はそれを少しずつ囓りながら、辺りに目を走らせていた。人と出会いたくない。出会えば、どうなるかと言うのは嫌と言うほど分かっている。
 先程の女性は開けっぴろげな性格で、比較的会話をするのも楽なタイプの人種だった。が、今の世の中、そんな人間は少数派である。心と言葉が一致している人など、そうそう居ることはないのだ。
「……ん?」
 細い路地を入ると、ピリと皮膚が震えるような、不思議な感触に襲われた。それが一体なんだったのかは分からない。ただ、彼を今まで守ってきた、第一級の勘のような物が、不穏な空気を伝えていたのだ。







1...



「悪いが、そろそろ終わらせて貰うぞ」
「我々もそれほど…暇な人種ではないものでな」
 そう言った彼らは、それほどの年齢ではなかった。二十代にさしかかるか否か、と言うところが精々だろう。
 今にも消えそうなシールドを構えながら、必死にこちらを睨み付ける少年少女達に、彼らはあくまで大人的な、余裕の笑みを見せていた。
「八神フォーサー…っ」
「くそ…ぉっ!」
 彼らは無造作に手を突きだした。先程の熱波が彼らのシールドを覆うと、サラサラと融けるように幕が崩れ落ちる。
 その瞬間だった。
「ターゲット505…だっけ」
 圧倒的な光を放つシールドは、構えもしない男から放射されていた。
 それを見た瞬間、構えたまま全身を硬直させていた少女が、くたりとへたりこんだ。


















もし、運命と定義づけることの出来る何かがこの世に存在していたとして、
そこに意志があったなら、一体どのような思考を持ってこの流れを産みだしたのか。

そんな事を問うても、始まりはしないのかもしれない。


全ては、動き出してしまったのだから。









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ヴェルトフォイア



        ソシテ 全テハ ココカラ 始マル―――


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